1.4  低栄養の患者における適正透析量

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1.4 低栄養の患者における適正透析量
1.  多変量解析法により決定した適正透析量
適正 Kt/V 値を決定するため使用される、ロジステイックモデルあるいは比例ハザードモデルを解析する多変量解析法では、図1の(a)に示すように、死亡率を死亡のリスク値とみなしたうえで、Kt/V をいくつかに等分し、それぞれの Kt/V 帯に属する患者の死亡のリスク値を表示している。その際、それぞれの Kt/V 帯に属する患者の死亡のリスク値は実際の値ではなく、所属する患者数がもっとも多い Kt/V 帯における死亡のリスク値を1.0(対照)とした場合の相対的な値である。
多変量解析法で Kt/V と死亡のリスクとの関係を求める場合、「Kt/V 以外のパラメータの値は、すべての解析対象患者において対照とした Kt/V帯に属する患者の平均値に等しい」という仮定を設ける。したがって、「適正Kt/V値は1.2以上である」というガイドラインは、Kt/V 以外の何らかのパラメータの値が対照 Kt/V 群の平均値よりも極端に高い患者や極端に低い患者には適用できない可能性がある。そのようなパラメータのひとつに透析前血清リン濃度(以後、単にリン濃度とする)がある。
 
 
2.  透析前リン濃度と透析量
リン濃度は食事の量と内容によって変化するが、同時に透析量を変えた場合にも変化する。したがって、適正透析を考えるときには Kt/V 値が死亡のリスク値に与える影響だけでなく、リン濃度が死亡のリスク値に与える影響も考慮しなければならないと思われる。つまり、Kt/Vに関する死亡のリスク値とリン濃度に関する死亡のリスク値とを合わせた総合の死亡のリスク値が最小になる時の Kt/V 値を適正 Kt/V値としなければならないことになる。
しかし、Kt/V に関する死亡のリスク値とリン濃度に関する死亡のリスク値とを合わせた総合の死亡のリスク値を最小にしようとすると、リン濃度がリン濃度に関する死亡のリスク値が最小となるような値に近い値となるようにKt/Vを増やし、あるいは Kt/V を減らすことになってしまう。これは、以下に示すように、死亡のリスクに対する Kt/V のインパクトよりもリン濃度のインパクトの方が大きいことによる。
図1の(a)に示すように、ほとんどの患者が入る Kt/V の範囲(1.0〜1.8)における死亡のリスクの最小値は 0.861 であり、最大値は 1.000であった。つまり、この範囲での最大変動幅(最大値—最小値)は、最大値と最小値の中間値である 0.931 の 15% に過ぎなかった。これに対して、図1の(b)に示すように、ほとんどの患者が入るリン濃度の範囲(4.0 mg/dL〜9.0 mg/dL)における死亡のリスクの最小値は 0.830 であり、最大値は 1.283 であった。つまり、この範囲での最大変動幅は、最大値と最小値の中間値である 1.057 の 43.9% であった[1]。これらの結果は、Kt/V 値が黒い棒グラフで示す通常の範囲内でかなり大きく変動しても Kt/V に関する死亡のリスク値は大きくは変動しないのに対し、リン濃度が通常の範囲内で変動すると、死亡のリスク値は Kt/V の場合よりも遥かに大きく変化すること、すなわち死亡のリスクに関して Kt/Vのインパクトよりもリン濃度のインパクトの方が大きいことを示している。
さて、リン濃度を下げる手段としては、透析によるリンの除去の増大よりも、むしろ、食事のコントロールやリン吸着薬の服用の方が一般的である。すなわち、リン濃度の高い患者では、まず食事のコントロールあるいはリン吸着薬の服用により、リン濃度をできるだけ適正値に近づけ、しかる後に Kt/V に関する死亡のリスク値とリン濃度に関する死亡のリスク値とを合わせた総合の死亡のリスク値がさらに低下するように Kt/Vを調整するのが現実的であると思われる。
これに対し、食事のコントロールでは是正しにくい低リン血症の患者については、透析によるリン除去量のコントロールが有用な手段であろう。リン吸着薬を服用していないにもかかわらず、食欲不振などのためリン濃度が 4.0 mg/dL 以下となっている患者では、たとえ Kt/V 値が低くても、さらに Kt/V 値を低下させた方がよいこともあるだろう。
 
 
 
文献
1.    わが国の慢性透析療法の現況(1997年12月31日現在). pp.379, pp.399日本透析医学会, 1998.