1.2 透析量の指標

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1.2 透析量の指標
1. Kt/V
a. 概念
Kt/V を得るために用いられるカイネティックモデルは、通常、尿素に関する single-pool モデルである。尿素に関する single-pool モデルでは、細胞内であろうが細胞外であろうが、尿素は体内の水分に均一の濃度で分布するとしている。そして、このモデルでは、透析とは体内の水分の一部をダイアライザに導き、この中から尿素を除去したうえで浄化された水分を生体内に戻すことであるとしている。
さて、Kt/V を、ダイアライザの尿素クリアランス(K)、透析時間(t)および体内の水分量(V)からなるひとつの数式と考えれば、その概念は容易に理解できるだろう。すなわち、透析による尿素の除去量はダイアライザの尿素クリアランス(K)が大きいほど、また透析時間(t)が長いほど多くなる。そこで、ダイアライザの尿素クリアランスと透析時間の積である Kt は、尿素の除去という点からみた透析量を表す。
ここで、体内の水分量が多ければ多いほど体内の尿素濃度の低下程度は小さくなり、一方、体内の水分量が少なければ少ないほど体内の尿素濃度の低下程度は大きくなる。そこで、体内の水分量が多い患者にも少ない患者にも Kt を等しく適用できるようにするためには、Kt を体内の水分量で補正して標準化しなければならない。すなわち、Kt を体内の水分量で割れば、単位水分量あたりの Kt である Kt/V が得られる。
 
b. Kt/Vを求める式
1) single-pool Kt/V

ダイアライザの尿素クリアランス、透析時間および体内の水分量をそれぞれ実測し、これらの値から Kt/V を算出するのは現実的ではない。そこで、通常、Kt/V は、透析中の体内の水分の減少を考慮した single-pool モデルを解析することにより得られた Shinzato らの式[1]か、あるいはDaugirdas らの式[2]を用いて算出する。
Daugirdas の式は、尿素の産生を無視しているのでより簡便である。これに対し、Shinzato の式は、尿素の産生を考慮しているのでより複雑になっている。しかし、Shinzato の式には Kt/V とともに nPCR  も算出されるという利点がある(最近、山本らがShinzatoらの式をアレンジして導いた式を用いれば、nPCR が簡単に算出できる)。
Shinzato の式により算出した Kt/V 値と Daugirdas の式により算出した Kt/V 値は一致する。これは、尿素の産生を無視しても、Kt/V を求めるためにカイネティックモデルを解析する限りにおいて問題は生じないことを示している。すなわち、前回の透析終了時から今回の透析終了時までの間(3日間;72時間)に産生された尿素のすべてが透析中(4時間)に除去されると仮定すると、透析中に産生される尿素の量は透析中に透析中に除去される尿素の量の 5.6% にすぎず、ほとんど血清尿素濃度の低下率に影響を与えない。
以下に Daugirdas の式を示す。 
Kt/V = −ln( Ce/Cs−0.008・td )+(4−3.5・Ce/Cs)・ΔBW/BW  (1) 
ただし、Cs は透析前BUN、Ce は透析後 BUN、td は透析時間 (hr)、ΔBW は透析中の体重減少量、BW はドライウェイトあるいは透析後の体重を示す。
なお、日本透析医学会統計調査委員会が用いている式は Shinzato の式である。
2) Equilibrated Kt/V
血清尿素窒素濃度のリバウンドの影響を受けない Kt/V として、Daugirdas らは、透析終了時の血清尿素濃度の代わりに透析後でリバウンド後の血清尿素濃度を使用し、除水にともなって体液量が減少していく single-pool モデルを解析することにより Kt/V を算出した。このようにして求めた Kt/V は、体内における「尿素の除去されやすい区域」と「除去されにくい区域」の境界に存在するはずの尿素の移動の抵抗となるバリアーの影響を消去した上で求めた Kt/V(equilibrated Kt/V) となる。リバウンド後の血清尿素濃度については、彼らは局所血流モデルを解析することにより求めている。以下に、Daugirdas らが報告した、除水にともなって体液量が減少していくsingle-pool モデルを解析することにより求めた、Kt/V を身体全体からの Kt/V に変換する式を示す[3]。 
    eKt/V= sKt/V - 0.6 sKt/V/td + 0.03              (2) 
ただし、t d は透析時間 (hr)、eKt/V は equilibrated Kt/V 、sKt/V は除水にともなって体液量が減少していく single-pool モデルを解析して透析前後の血清尿素濃度から算出した Kt/V を示す。
Equilibrated Kt/V は透析時間や透析効率が異なる国や地域間で透析量を比較するのに優れている[4]。
 
 
2. 尿素除去率(URR)
尿素除去率とは、透析前に存在した尿素量に対する除去された尿素量のパーセンテージである。現在、広く使用されている尿素除去率は、体液量の変化を無視した single-pool モデルに基づく。
Cs - Ce
尿素除去率(%) = ----------×100                       (3)
Cs
 
これに対して、体液量の変化とリバウンドのいずれも考慮した尿素除去率がクリアスペース率である。クリアスペース率は以下の式により算出する[5]。
クリアスペース率 (%) = 100–[(Ce/Cs - 0.008t)(1-0.6/t) + 0.008t]×100/[1+1.81(ΔBW/BW)]     (4) 
ただし、Cs は透析前血清尿素濃度、Ce は透析後血清尿素濃度、t は hr 単位の透析時間、BW は透析後体重、ΔBW は体重減少量を示す。
 
 
3. Kt/Vと尿素除去率の比較
体液量の変化を無視した single-pool モデルに基づく Kt/V、すなわち Gotch の Kt/V と現在広く使用されている尿素除去率の間には、以下に述べるように数学的な関係があり、相互に変換することが可能である。
体液量の変化を無視したsingle-pool モデルにおいては、透析による尿素の除去量(M)は、透析前の体内尿素量(V×Cs)から透析後の体内尿素量(V×Ce)を差し引くことにより求められる。ただし、V は体水分量、Cは透析前 BUN、Cは透析後 BUNを示すものとする。
M = V×Cs - V×Ce= V(Cs - Ce)                    (5) 
ところが、体液量の変化を無視した single-pool モデルでは、透析後 BUN は次に式により求められる。
Ce = Cs×exp(-Kt/V)                                 (6) 
ここで、式(1)に式(2)を代入すると、式(7)が得られる。
M = V×Cs - V×Cs×exp(-Kt/V)                     (7) 
式(7)を整理すると、
M = V×Cs×[1 - exp(-Kt/V)]                          (8)
一方、尿素除去率は、透析前に存在した尿素量(V×Cs)に対する除去された尿素量(M)のパーセンテージと定義されるので、以下の式(9)で表現される。
M
尿素除去率=---------×100                        (9)
V×Cs 
式(9)に式(8)を代入すると、Gotch の Kt/V と現在広く使用されている尿素除去率との関係を示す以下の式が得られる。
尿素除去率=[1 - exp(-Kt/V)]×100                (10)
 

図1には、式(10)をグラフで表現する。図1に示すように、Kt/V を増加させていっても Kt/V の増加ほどには尿素除去率は増加していかないことがわかる。これは次のように言い換えることもできる。すなわち、尿素除去率を増加させていくと、尿素除去率の増加率に比べて Kt/V の増加率はしだいに大きくなっていく。尿素除去率が 100% に達することはありえないが、Kt/V はいくらでも増加させることができる。この基本的な関係は、たとえ Gotch の Kt/V を体液量の変化を考慮した single-pool Kt/V に置き換えても、あるいは尿素除去率をクリアスペース率に置き換えても変わらない。
 
GotchのKt/Vと尿素除去率の関係
Single-pool Kt/V(体重増加率6%)と尿素除去率の関係を示す

なお、Lowrie は Kt/V と死亡のリスクとの関係、尿素除去率と死亡のリスクとの関係に関する多くの文献を見比べて、Kt/V よりも尿素除去率の方が透析量の指標として優れていると述べている[6]。しかし、Kt/V にはすでに膨大な臨床的に重要なデータの蓄積があるので、単純に Kt/V を廃止して尿素除去率あるいはクリアスペース率を採用するわけにいかない。
 
 
 
文献
1.  Shinzato T, et al: Determination of Kt/V and protein catabolic rate using pre- and postdialysis blood urea nitrogen concentrations. Nephron  1994; 67: 280-290
2.  Daugirdas JT: Second generation logarithmic estimates of single-pool variable volume Kt/V: An analysis of error. J Am Soc Nephrol 1993; 14; 1205-1213
3.  Daugirdas JT, Schuneditz D: Overestimation of hemodialysis dose depends on dialysis efficiency by regional blood flow but not by conventional two pool urea kinetic analysis. ASAIO Journal 1995; 41: M719-724
4.  Miwa T, et al: Which Kt/V is the most valid for assessment of both long mild and short intensive hemodialyses? Nephron 2002; 92; 827-831
5.  新里高弘, 他:適正透析に関連する新しい指標:クリアスペース率. 日本透析医学会雑誌  2006; 39(第51回日本透析医学会学術集会・総会特別号); 600, 2006.
6.  Lowrie EG.:The Normalized Treatment Ratio (Kt/V) Is Not the Best Dialysis Dose Parameter. Blood Purif 18:286-294, 2000.